葉月のスキズキ

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zoom RSS 夕凪の街桜の国

<<   作成日時 : 2017/05/13 10:58   >>

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昨年、片渕須直監督『この世界の片隅に』を見たときは、ご多聞にもれずこれは映画史上に残るような傑作だと思った。主人公が舟に乗る冒頭から、ちょっと油断すると涙でスクリーンがよく見えなくなる。派手に観客の感情に訴えるような場面がほとんどない映画なのに。

映画のスタッフの手腕も見事なものなのだが、おそらくこうの史代の原作自体が傑作なのだろうとも思った。
そこで『この世界の片隅に』の原作マンガを読むならまっとうなのだけど、なぜか同じ作者の前作『夕凪の街桜の国』をまず買って読んでしまうあたりが私のズレているところというか「女に生まれていたら天職はドジッ子メイド」といわれる所以である。

この作品も明らかな傑作で読者のおそらく九割がたがこの本に出会えたことを感謝するような佳品。世の中には寡作ながらそれでも素晴らしい作品を生み出す作家が稀にいるけど、この作者もそういう人なんだと思う。

ただこの『夕凪の街桜の国』を読み終える直前に軽いショックのようなものを味わった。
というか、この作品の後半を占める『桜の国』の主要人物たちが私自身とそれほど世代の違わない私と同様の東京生まれ東京育ちの所謂「被曝者二世」であることに気づいて陶然としてしまったと言うべきか。

想像力の欠如なのか偶々なのか私はこの『桜の国』の登場人物のような健康被害(遺伝的な瑕疵?)のプレッシャーを生活の中で感じたことがほとんどない。

父が(さらに言えば祖父も)長崎で被曝しているせいか、かなり幼いころから普通の子供よりは放射線の人体にたいする影響については興味はあった方だと思う。放射線を浴びたら巨大化したり火を噴いたりするようになるわけではなく、もっと地味な健康被害があることも知っていた。

それでも父をはじめとして私の知っていた多くの被曝者たちは原爆でも死ななかった上に天寿を全うしたずうずうしい人間ばかりだったので、被曝の後遺症はどこか神話化されているようにも思えた。
もとより核兵器はその圧倒的な爆発力で人を殺すためのもので放射線や放射性物質で人的な被害を出すために設計されたものではないのだし。
ただ私がもっと敗戦に近い年代に生まれていればまた違う感覚をもって被曝者たちの生活を眺めることになったかもしれないが。

私が二十歳くらいだったころ、長期間に渡る被曝者や被曝者二世への追跡調査の結果としてペンタゴンが「強力な放射線の短時間照射の遺伝的な影響はほとんど見られない」旨の発表をしたことはあった。そんなことはとっくに知っているとは思ったしモルモット扱いされている自覚はもっと幼いころからあったのでさして腹も立たなかった。
ここまで書いてふと思い出したけどウィルマー・H・シラス『アトムの子ら』(原子力プラントの事故が元で周辺地域に超天才児が続々と生まれるSF)を中学生で読んだときは妙に腹が立った。

そういえば私が十代だったころは東西対立が深刻で全面核戦争の可能性すら言及された時代だったけど、そんな全面核戦争になったところで、原子力発電所への攻撃はないと言われていた(地球環境への被害が大きすぎるので)。
今では、戦争状態になったら敵国の工作員が原子力発電所の外部電源供給を破壊してメルトダウンさせる戦法に出るんじゃないかとか言われたりもする。時代は変わるものだ。

まだ死ぬような歳でもない知人友人が亡くなったり立て続けに入院したりすること慣れてきているような気がする。
幸いなことに私の周囲では幼い子供が白血病になったりする事例にはお目にかかっていない。
被曝による健康被害に関する言説にはやや現実離れした神話的な要素があると思いたい。

それでも身近で幼児が被曝による健康被害が疑われる症状を見せたらパニックにならないでいる自信がない。
生まれる前からの因縁で被曝という言葉に長年なじんでいる身としては若干なさけないことではある。

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